市場の変動に一喜一憂しない方が良い理由〜東洋医学の見地から〜(金野真弓)

Bogleheads®日本チャプター:リレーコラム< vol. 5> 2022年3月27日

今年に入ってから急激な市場の下落や円安により、資産総額の増減がめまぐるしく、残高に「一喜一憂」されることもあるかと思います。

私もかつて個別株投資をしていた時は日に何度も株価をチェックして、上がると心のメーターの針が振りきれるほど喜び、逆に大幅に下がると心にモヤが掛かり憂鬱な気分になるという、株価の変動に激しく一喜一憂する生活を送っていました。個別株投資はその銘柄に思い入れもある分、心の振り幅がとても大きかったです。最も個別株投資をしていた時は客室乗務員をしていましたが、ステイ先のホテルでもPCや携帯で株価をチェックし、株式市場が閉まるとクルー同士で美味しいものを食べに行く生活で(それはそれで楽しかったのですが・・^^;)、乗務中は株価チェックが出来ないことも退職を考えた理由のひとつという筋金入りの個別株投資家でした。結局当時の投資の収支はマイナスでしたので、株価チェックではなく、各地で行った美味しいお店を紹介するブログでも書いておけば備忘録にもなり、有意義なステイ先での時間の使い方だったなあと今更ながら後悔しています。

バンガードに入社した2008年からは「短期的な市場の変動には耳を貸さず、長期的視点を持って、コストなど自分でコントロールできることだけに注力する」といったインデックス投資の極意をどんどん吸収しながらインデックス投資をしていた為、100年に一度と言われたリーマンショック後の株価が低迷し続けた時も、2020年のコロナショックの時も、泰然自若とブレずに定期積立投資を続けていました。個別株投資は自分にはうまくいかないことが身に染みて分かっていたことも、ブレずに取り組めた大きな強みだったと思います。市場の変動に心を惑わされなくなった分、仕事により集中出来たり、趣味に使える時間が増えたり、学校に通って勉強したりと、自分自身の成長に繋がる時間をより多く持てるようになり、収入も増えました。

前おきが長くなりましたが、なぜ「市場の変動に一喜一憂しない方が良いか」の東洋医学の見地からのお話です。

現在鍼灸の専門学校で東洋医学を学んでいますが、「一喜一憂」の「喜」と「憂」という漢字は、東洋医学の「五行学説」という考えと深い関係があります。五行学説では自然界の森羅万象を「木・火・土・金・水」の5つの要素に分けて考え、それらに対応する臓器を「五臓(肝・心・脾・肺・腎)」、情動(精神活動)の部分を「五志(怒・喜・思・憂・恐)」で表します。人間にとって必要な時にこれらの感情を出すことはとても大切で自然なことですが、東洋医学ではその感情を過度に出し続けると、内臓に影響を与え、病気を引き起こす可能性があると言われています。

「喜」は悪いことではないと思われる方も多いと思いますが、喜んで興奮し過ぎる状態が続くと全身に血を送る「心」の機能が緩み、精神のコントロールができなくなると言われています。

「憂」は、気が停滞することで「肺」を傷めてしまい、気持ちが落ち込んだり、風邪を引きやすくなったり、呼吸や嗅覚に影響が出ると言われています。

五行学説では、5つの要素は互いに循環、制約・対立しながらもバランスが取れている状態をよしとします。一つの感情が過剰に突出してしまうのは病的な状態ととらえます。
投資は長い旅です。日々の市場変動に対して長期にわたって一喜一憂し続けると、東洋医学的な見地では臓器を痛めてしまう可能性があるかもしれません。日々の市場変動に一喜一憂しないことはご自身の心身の健康を守る上でも大切なのです。

とはいうものの・・・、昨年退職し、収入のうち多い割合を占めていた勤務先からの月々のお給料が入らなくなった私は、今年の市場の下落に正直「憂」も感じました。株式市場の下落にも耐えられるポートフォリオにしており、アセットアロケーションを変更する必要は現時点ではないと考えていますが、下落に対する感度が毎月まとまった収入がある時と少なくなった時、ない時では全然違うと身を持って実感した次第です。

頭では想定していても、心や感情はその状況にならないと分からないこともあります。幅広い株式市場への分散投資は、長期的に資産の成長を追求する方にとって賢明な選択だと考えられます。「長期・分散・低コスト」の投資を、一喜一憂せず確信を持って取り組めるよう、もし今回の市場の下落で随分焦ってしまったという方や、近々ライフプランを変える可能性がある方は、今後数年以内に使う予定のお金のリストを作成したり、ご自身のリスク許容度やアセットアロケーションを見直すよい機会かもしれません。

<参考文献>
編:公益社団法人東洋療法学校協会・著:教科書検討小委員会『新版 東洋医学概論』(2015年)医道の日本社、pp.106-113, 188-196

注:インデックスファンドへの投資は将来の成果を約束したり、相場下落時の損失を防ぐものではありません。投資には様々なリスクがありますので、リスクを正しく理解された上で、ご自身の判断と責任のもと投資を行ってください。